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竜を継ぐ者(9)ツンデレ委員長は男知らず



 腹を見る彩夏の顔は苦虫を噛み砕いたような、何とも言えない表情だった。
 取り乱していないだけ、彩夏はまだ冷静だと真吾は思った。それでも表情を見ればショックや不安を感じているのは真吾にも理解できた。
 真吾はスマートフォンのウェブ機能で、子宮に巣食う寄生物について検索を掛ける。
 矢張り気になるのか、そわそわした様子で彩夏も手元を覗き込んだ。

「ダメだな。それらしいものは引っかからないや……」
「そうなると、発見されていないか若しくは――」
「うん、発見されていたとしても公開できないか――だね」

 言葉を継いで続けた真吾の言葉に、彩夏も同意するように頷く。
 発見した経緯を見ても常識を逸している。これ一つを取ってみても普通じゃないのに、他に普通ではない出来事が三つも起きた。
 自我を失い教室でオナニーに興じていた彩夏。
 身体を乗っ取る意味不明な存在。
 そして彩夏の腹部の発光。
 ダメ押しにこの生物だ……。
 これらは全て関係している事なのではないだろうか。若しかして声の目的は、まさか本当はこの生物にあったのでは――。

「……まだ居るかもしれない――先生に聞いてみようかな」

 ボソリと呟くと、彩夏が顔を上げた。

「生物の澤井先生に?」
「うん……このまま先生の所に寄ろうと思う」

 手持ちの袋に謎の生物をしまいながら教室を出ると、彩夏も後を追うようにして教室から出てきた。

「私も行くわ」
「――エッ!?」

 あまりに意外すぎて顔に少し出てしまった。来なくていいのにという表情が。

「それはちょっと困――いや……何でも」

 咄嗟に不満を言いかけて、真吾はち消すようにすぐさま愛想笑いを浮かべた。

「へぇー……不満なの」
「い……いや、そんな事は……」

 しっかりと聞かれていたようで、それを見咎めた彩夏の機嫌が悪くなる。
 ブリザード吹きすさぶツンドラ荒野を感じさせる彩夏の冷涼な声が真吾を貫く。
 うわぁ――冷たぁい……。
 すっかり普段通りの彩夏の顔を目の当たりにした真吾は、さっきはあんなに可愛かったのにな……と、抱かれていた時の彩夏と今の彩夏のあまりの温度差に震え上がる。
 矢張りクラスを纏め上げる手腕は伊達じゃないなと真吾は思った。

「わ――わかったから、そう睨みつけないでよ……」
「睨まれるような事をしたからでしょう?」
「ぐ……っ」

 言葉に詰まって真吾は拳をグッと握る。
 彩夏だって教室なんかでオナニーしていたのだから、悪いのはお互い様だと思う。なのに自分だけを悪し様に言うのはどうも納得がいかない。

「ねえ委員長、聞きたい事があるんだけど」
「何……?」

 すっかり普段のクールな横顔の彩夏に、その顔がいつまで保つだろうと真吾は思った。
 彩夏は割りと羞恥的な事に耐性がない。予想では、次には壊れるんじゃないだろうかと真吾は内心ニヤリと笑う。

「どうして教室でオナニーしてたの?」

 真吾の言葉に、たっぷり沈黙を置いて答える彩夏の顔は呆気に取られていた。

「…………は?」
「いや、は?じゃなくて――オナニーだよオナニー。一人エッチでもいいけど。教室でオナニーとか勇気ありすぎ――」
「ちょ――ちょちょちょ、ちょっと待って!」

 想像通りの早さに、真吾は内心クククと笑ってしまった。
 彩夏の顔は茹蛸のように真っ赤になっていた。完全に冷静さを欠き動揺する彼女は、見ていて可愛らしい。

「話が全く見えないんだけど!?」
「若しかして委員長、記憶がないの……?」
「何がよ。あ――でも待って。確かに日誌を書くの止めてから以降の記憶がないかも……」

 彩夏の話を要約するとこうだった。
 確かに今日は、昼休み頃から体調は優れなかった。学級委員長会議の後、教室で日誌の残りを書いていたら、その容態が日誌を書いてる途中で急に悪化した。
 状態としては身体がだるく、熱い。発汗も酷くて――風邪かなと思った彩夏は、家に帰る事にしたようだ。
 片付けをしているその途中からの記憶がないと彩夏は話した。

「そっか。委員長はその時にオナニー始めたわけか――で、僕に見つけられたと。じゃあ委員長はオナニーした記憶が全くないんだ?」
「あ――あるわけないじゃない!何度も何度もオ……オ、オ、オ、オナ…………もう!だから言わないで欲しいの!!」

 ギュッと吊った眦が恥ずかしさからか潤んでいる。
 一度元に戻ったクールな顔は、跡形もなく消えてしまっていた。

「委員長ってオナニーって言えないんだ、意外と可愛いんだね」
「――っか……かかか、かっ、かわ…………!?」

 まじまじと見つめてそう言うと、彩夏の顔はカーッと茹で上がってしまった。
 まるで処女のような初心な反応。さっきまでは彩夏は本当に処女だったが、恥ずかしい言葉も可愛いと言われる事にも、彩夏は本当に慣れていないようだった。
 可愛い過ぎるだろ、この反応……。
 これで淫語を使ってセックスを強請った事まで教えたら――どうなるんだろうかと、真吾は思った。

「滝川くんはそれ――を見て、私を襲ったの?人の意識がない時にそんな事するなんて……」
「軽蔑する?でもさ、男から言わせたらあんな場所でやってるのが悪いってなるんだぜ?」
「他の男子も同じ事をするって滝川くんは言いたいの?」

 少し含みのある刺々しい彩夏の声は、他の男子は違うとでも言いたげだ。
 毎日のように接しているクラスメイトを信用したい気持ちがそうさせるのかもしれないが、その思考はかなり危ないと指摘せざるを得ない。
 甘いな。男を知らな過ぎる……委員長をやっている割に、彩夏は意外と世間知らずだ。男に縁のなさそうな雰囲気もあるし、男女間については本当に世間知らずなのかも――真吾は溜息を洩らした。

「思うね。全員がそうだって言うのは暴論だけど、大概の男はそんなものだと思うよ。衝動を抑えられるかどうかは、どういう理由で理性が働くのかに依るんじゃないかな」

 眉を片方だけピクリと上げて、彩夏は得心がいかない顔をしている。

「あ――言っておくけどさ、僕も最初は思い留まっていたんだぜ?」

 思いっきりジト目で真吾を睨む彩夏。
 彩夏だって拒まなかった癖に――と、真吾は思ったが口にはしなかった。

「確かに――途中からは僕だったよ。それは認めるよ……でも最初に君を犯したのは僕じゃない、別の誰かだ」
「まだそれ言ってるの?そりゃあ、話し方や雰囲気は全然違ったけど――」
「さっきも言ったけどさ、あいつには何か目的がある――多分あの生き物に関係してるんだと思う」

 彩夏は思案顔で、真吾の方を一瞬だけチラリと見た。

「――身体が白く発光した事も関係あるのかな……」
「多分ね。幾ら何でも偶然が重なり過ぎだし、全て関係があると考える方が自然だ――きっと変だった委員長の様子も、何かしら関係があるんじゃないかなぁ……」

 彩夏はこちらを見ずに、少し俯き加減で言った。

「だ……だからって、まだ信じた訳じゃないんだからね!」

 ややムッとした調子で言う彩夏。
 俯く彩夏の顔は、少しだけ赤かった――テレてるのだろうか。

「わかってるよ……仕方ないよね、現実的な話じゃ無いもんな……」

 真吾はきまり悪そうに薄く笑むと、それ以上は何も言えなくなった。
 二人の間を沈黙が襲い、バラつきのある足音が廊下に響く。
 まだ午後6時を過ぎたばかりとはいえ、季節は11月半ば。日が落ちるのはあっという間で、窓の外はすっかり夜の帳が下りて既に暗い。
 奥に向かうにつれ闇を深めている廊下は、昼の騒々しさが懐かしく思えるほど静か。その静けさが余計に薄暗さを増幅させているような気さえする。

「滝川くんってさ……」

 隣を歩く彩夏が唐突に口を開いた。
 彩夏の方に顔を向けると、彼女も真吾を見ていた。思い切り目が合ってしまい、ほんの少しだけ真吾にテレが浮かぶ。

「もっと無口で暗い人なのかと思った」
「はっきり言うね。まあ――そう思われても仕方ないかな。教室じゃ僕は殆ど話さないもんね」

 彩夏の総評にホモが混じっていない事に真吾はホッとした。
 中学校までその流言飛語には迷惑したものだ。高校生活までこのデマに踊らされるのはご免である。
 誰が流したものなのかはもう確かめる術はないが、デマの所為で女の子は近寄らないし男の先輩に変にベタベタ絡まれるし、いい思い出が全くない。
 お陰様で、肉体はそこそこ鍛えられていた。
 何故かと問われれば、男に襲われても逃げ出せるように鍛えたに決まっている。男を狙う先輩なんて運動部系のヤバいのが殆どだ。

「割と話すし、意外と話しやすいから少し驚いたわ。何で普段からそうしないの?」

 どうしてと問う彩夏は本当に疑問に思って聞いているようだった。
 会話の苦手な人間の心理なんて、ある程度は決まっていると思うのだが。
 人と話す事そのものが苦手か、極度の人見知り。
 どうしてと感じるのは、できる事を当然の事と認識しているからだ。
 委員長である彩夏は対面で臆するような事はきっと、無いのだろう。臆する事もなく他人と接する事のできる人が、羨ましいと真吾も思っているし、そうなりたいとも思ってはいる。
 とは言え思っていればできるようになるというものでも無い。

「別に猫被ってるとかじゃ無いけど、打ち解けてない人と話すのは苦手なんだよね……」
「ふ~ん……人見知りなんだ。普通に話してるけど私とは打ち解けたの?」

 首を傾げた瞬間にパラリと落ちた髪を耳に掛け直しながら、彩夏は真吾の顔を少し上目使いで覗き込んだ。
 女性らしい不図した仕草にドキリとして、思わず真吾は目を逸らす。
 そういえば……確かに緊張もなく普通に会話しているなと真吾は思った。
 殆ど会話をした事の無い女子との会話など、普段ならすんなりとはいかない。
 そもそも今まで気にするゆとりも無いほどバタバタしていた。説明し終えた後はもう、彩夏とエッチする事しか念頭に無かったのだから、緊張する余裕の方が無かったようなものだ。
 今では彩夏をからかうゆとりすら、心に感じるのが真吾には驚きだった。

「そうかもね。身体が繋がったついでに、心も繋がったんじゃない?」
「ば――バカじゃない!?」

 打ち解けたついでに軽口でからかうと、彩夏は顔をカーッと染め上げた。
 不意に怒らされた顔が不器用に眉を吊り上げて、何とも愛らしく感じる。

「バカじゃないって、ツンデレかよ……プッ、可愛い」

 思わず吹き出してしまった。
 ムッと脹れると彩夏は気分を害したようにプイッとそっぽを向く。
 子供のような拗ね顔に、笑いが更に込み上げる。耐えかねたようにプクククと笑うと、彩夏は今度は剥くれてしまった。

小説家になろう・ノクターンノベルズでも連載中です◇










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2018/07/19 00:00 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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